集中すると楽しい。人と話しても楽しい。その違いは?

更新日:10月1日

仕事や勉強に集中していると、気分がよくなることがあります。
難しい問題が解けたとき。文章がうまく書けたとき。予定していた仕事がどんどん進んだとき。「もう少し続けたい」と感じることもあるでしょう。
一方で、誰かと話すことで気分がよくなることもあります。
自分の気持ちをわかってもらえたとき。一緒に笑ったとき。思いつかなかった考えを教えてもらったとき。会話が終わったあと、心が軽くなることがあります。
どちらも気分がよくなる体験ですが、そこには少し違った喜びがあります。
集中すると「できた」という喜びが生まれる
集中しているときの喜びは、「できた」「わかった」「前に進んだ」という感覚から生まれます。
たとえば、少し難しいパズルに取り組む場面を考えてみましょう。
最初は答えがわからなくても、試しているうちに少しずつ形が見えてきます。そして答えを見つけた瞬間、「そういうことか」とうれしくなります。
集中する時間には、次のような喜びがあります。
わからなかったことが、わかる
できなかったことが、できる
自分の力で仕事を進められる
少しずつ上達していると感じる
仕事が終わったときだけではありません。目標に近づいていると感じられれば、取り組んでいる途中にも喜びが生まれます。
夢中になると、余計な心配を忘れられる
何かに深く集中すると、時間を忘れることがあります。
絵を描いていたら、いつの間にか何時間も過ぎていた。文章を書いているうちに、周りの音が気にならなくなった。スポーツに夢中になり、ほかのことを考えなくなった。
このように、目の前の活動に深く入り込んだ状態は「フロー」と呼ばれます。
フローに入りやすいのは、簡単すぎず、難しすぎない活動です。少し頑張ればできそうなことに取り組むと、集中しやすくなります。
夢中になっている間は、「失敗したらどうしよう」「人からどう見られているだろう」といった心配が、いったん頭から離れることもあります。
フローについての研究でも、夢中になっているときには、自分について考えることに関係する脳の一部で、活動が弱くなる様子が確認されています。
つまり、集中すると気分がよくなるのは、成果が出るからだけではありません。目の前のことに夢中になり、余計な心配から離れられることも関係しているのでしょう。
会話には「伝わった」という喜びがある
人と話したときの喜びは、少し違います。
悩みを友達に話して、「それは大変だったね」と言ってもらう。自分の考えを伝えて、「私もそう思う」と返してもらう。一緒に話しているうちに、自然と笑顔になる。
このようなとき、問題が解決したわけではなくても、気持ちが楽になることがあります。
会話には、次のような喜びがあります。
自分の気持ちが相手に伝わる
話を聞いてもらえる
同じ気持ちを分かち合える
自分とは違う考えに出会える
一人ではないと感じられる
自分の考えや経験を誰かに話すこと自体にも、人を喜ばせる力があります。実験でも、自分のことをほかの人に伝えると、よい出来事に反応する脳の部分が働くことがわかっています。
集中が「自分の力を使う喜び」だとすれば、会話は「人とつながる喜び」だといえるでしょう。
会話が疲れることもある
もちろん、すべての会話が楽しいわけではありません。
相手に否定されたり、ずっと気を使ったり、自分ばかり我慢したりする会話は、かえって疲れることがあります。
集中も同じです。
仕事が難しすぎたり、やりたくないことを無理に続けたりすると、苦しくなります。簡単すぎて手応えがなければ、退屈になることもあります。
集中も会話も、行えば必ず気分がよくなるわけではありません。
集中では、仕事の難しさが自分の力に合っていること。会話では、お互いに安心して話せること。このような条件がそろったときに、それぞれの喜びが生まれやすくなります。
ドーパミンは「幸せを出す物質」ではない
集中すると気分がよくなる理由を、「ドーパミンが出るから」と説明することがあります。
ドーパミンは、脳の中で情報を伝える物質の一つです。何かに取り組む気持ちや、経験から学ぶ働きに深く関わっています。
ただし、ドーパミンを「出れば幸せになる物質」と考えるのは、少し単純すぎます。
ドーパミンは、楽しさそのものよりも、「やってみたい」「もっと続けたい」「次も手に入れたい」という気持ちと深く関係しています。気分がよくなったというだけでは、ドーパミンが増えたかどうかもわかりません。
また、会話を楽しんでいるときにも、脳の中ではさまざまな働きが起きています。
そのため、「集中はドーパミン、会話は別の物質」と、きれいに分けることはできません。私たちの気分は、一つの物質だけで決まるほど単純ではないのです。私も書籍を書くときは少しわかりやすく、ドーパミンに焦点を絞ってお話することもありますが、厳密には他にも多くの脳内物質が関係しています。
集中と会話には共通点もある
集中と会話は違う喜びを生みますが、共通する部分もあります。
それは、自分が働きかけると、何かが返ってくることです。
仕事では、考えると答えが見えてきます。手を動かすと、成果が少しずつ形になります。
会話では、話しかけると相手から言葉や表情が返ってきます。相手の反応を受けて、さらに話が広がります。
どちらにも、「働きかける」「反応が返る」「次へ進む」という流れがあります。この流れがうまく続くと、私たちは手応えを感じます。
また、人と一緒に仕事をすると、二つの喜びを同時に感じることもあります。
一緒に考えて問題を解決できれば、「できた」という集中の喜びと、「一緒にできた」という交流の喜びの両方を得られます。
集中と交流の時間を、仕事の中につくる
「集中力ファースト」の手法では、午前中に一人で集中して仕事を進め、午後に打ち合わせや会話などの交流を行うことを勧めています。
頭がすっきりしている午前中に、考える仕事や大切な仕事に取り組みます。午後は、人と話したり、情報を交換したり、一緒に考えたりする時間にします。
ただし、必ずこの順番にする必要はありません。
朝のほうが人と話しやすい人は、午前中に交流し、午後に集中してもよいでしょう。仕事の予定や自分の調子に合わせて、順番を変えることもできます。
大切なのは、集中する時間と、人と交流する時間の両方を、一日の中につくることです。
集中する時間には、「できた」「わかった」「仕事が進んだ」という喜びがあります。交流する時間には、「伝わった」「一緒に考えられた」「気持ちを分かち合えた」という喜びがあります。
できれば同じ部署内で「集中する時間」と「対話する時間」を揃えておけば、「集中したいのに話しかけられる」ということを防ぐことができます。
一人でじっくり取り組み、人とのつながりも楽しむ。
集中と会話、両方の喜びを仕事の中で手に入れ、充実した一日をつくる。それが、集中力ファーストで集中と交流の時間を分ける理由です。
参考文献
Berke(2018)What does dopamine mean?ドーパミンと、意欲や学習との関係をまとめた論文。
Ulrichほか(2014)Neural correlates of experimentally induced flow experiences課題に夢中になっているときの脳の働きを調べた研究。
Tamir・Mitchell(2012)Disclosing information about the self is intrinsically rewarding自分の考えや経験を人に伝えることの価値を調べた研究。










コメント