シャローワークを味方につける――「回復・整備・接続」で仕事を再設計する
- 伊賀上真左彦

- 7月11日
- 読了時間: 7分
私の新しい書籍『集中力ファースト』が、いよいよ来月発売されます。
書籍情報:
『集中力ファースト FOCUS FIRST』
伊賀上真左彦・岡林昭憲・田嶋江梨子
先日、原稿の最終確認を終え、カバーイラストも完成しました。昨年8月に執筆を始めてから、約1年。あとは発売を待つだけです。
おそらく日本初の、ディープワーク、およびその環境を整えるフォーカスファーストの考え方について書いた本です。私はこの本を、「日本の働き方を根本から変えたい」という思いで書きました。
長時間働くのではなく、短時間で成果を出す。
仕事や勉強を、ただ苦しむものではなく、夢中になれるものにする。
そして、自分が本当にやりたいことを仕事につなげていく。
そんな働き方を実現するための考え方と方法を、一冊にまとめています。
今回は本書の第5章から、ディープワークと対になる「シャローワーク」について解説します。

シャローワークとは何か
メールへの返信、日程調整、会議への参加、申請処理、資料の整形。仕事をしていると、このような細かな業務に多くの時間を使います。
これらは「シャローワーク」と呼ばれます。高度な専門知識や強い集中力をそれほど必要とせず、手順に沿って比較的短時間で進められる仕事です。
シャローワークには、主に次のような特徴があります。
- 短時間で始められる
- メール返信や入力など、反復的な作業が多い
- 高度な集中力を必要としない
- 他の人でも代替しやすい
- 作業量や対応の速さで評価されやすい
- 長期的な専門性や市場価値につながりにくい
一方、複雑な問題の分析、企画、研究、執筆、設計など、強い集中力によって新しい価値を生み出す仕事が「ディープワーク」です。
両者の違いは、単なる難易度ではありません。
ディープワークが「価値をつくる時間」だとすれば、シャローワークは、その価値を届け、日々の仕事を円滑に回す時間です。
シャローワークは、ときに「価値の低い仕事」「減らすべき雑務」と見なされます。しかし、本当に問題なのは、シャローワークそのものではありません。
目的を決めないまま、仕事時間の大部分をシャローワークに使ってしまうことです。
シャローワークが増えすぎる二つの問題
1.心が消耗する
シャローワークは簡単に取りかかれるため、次々と処理していると「仕事をしている感覚」を得られます。
しかし、作業を終えても、十分な達成感や成長実感を得にくい傾向があります。
通知に反応し、メールを返し、会議に参加しているうちに一日が終わる。忙しく働いたはずなのに、「今日は何を生み出したのだろう」という感覚だけが残る。
こうした細かな反応を繰り返す働き方は、休む間を奪い、心を少しずつ消耗させます。
2.キャリアが停滞する
専門性を伸ばすためには、難しい課題に集中して取り組み、試行錯誤する時間が必要です。ところが、シャローワークが一日を埋め尽くすと、そのための時間とエネルギーが残りません。
目の前の仕事には対応できても、「将来の武器」となる知識やスキルを育てられなくなります。
シャローワークだけで忙しい状態が続けば、現在の仕事を回すことはできても、自分の市場価値を高める機会は失われていきます。
シャローワークには三つの重要な役割がある
だからといって、シャローワークをすべて削減すればよいわけではありません。
適切に配置し、その目的を明確にすれば、シャローワークはディープワークを支える有益な時間になります。
その役割が、「回復」「整備」「接続」の三つです。
1.回復する
強い集中力を必要とするディープワークを、長時間続けることはできません。
集中力が落ちた時間に、メールの整理や定型的な確認作業へ切り替えれば、脳を休ませながら仕事を前へ進められます。
例えば、午前中に重要な企画や執筆を行い、昼食後の集中しにくい時間にメール返信や日程調整をまとめる方法です。
シャローワークを「何となく行う雑務」ではなく、集中力を回復させる時間として配置します。
2.整備する
ディープワークを始めようとしたとき、必要な資料が見つからない、保存場所が分からない、作業環境が整っていない。このような状態では、せっかくの集中力が準備作業に奪われてしまいます。
フォルダーの整理、テンプレートの作成、資料形式の統一、作業環境の調整などもシャローワークです。
これらを「整備のための投資」と考え、あらかじめ時間を確保しておけば、ディープワークの速度と質を高められます。
3.接続する
一人で優れた成果を生み出しても、それが周囲に伝わらなければ、価値は組織や社会に届きません。
進捗報告、情報共有、短い相談、関係者への連絡、お礼のメッセージなどは、成果と周囲を接続する仕事です。
シャローワークには、人間関係を整え、信頼を育て、つくった価値を外へ届ける役割があります。単なる連絡作業ではなく、「成果を広げる仕事」と位置づけることが大切です。
シャローワークを将来のキャリアにつなげる
日本の職場で多く見られる「島型オフィス」は、机を対面に並べ、周囲の動きを把握しやすくした配置です。
このような環境は、相談や確認、情報共有などのシャローワークを進めやすくする一方、深く集中する時間が中断されやすいという側面もあります。
一般に、シャローワークは専門性や収入の向上へ直接つながりにくい仕事です。しかし、ディープワークと組み合わせ、その役割を再設計すれば、キャリアを支える時間へ変えられます。
大切なのは、目の前の仕事にただ流されるのではなく、「この作業を将来のキャリアへどうつなげるか」と考えることです。
慣れた仕事には「フローワーク」を取り入れる
定型的な仕事を安定して進める方法として、第5章では「フローワーク」という考え方も紹介しています。フローワークとは、慣れた仕事を一つに絞り、ほどよい集中状態で、流れるように進める働き方です。
慣れた仕事に適度な挑戦を加えることで、単調さを減らし、達成感と生産性を高めることができます。
ディープワークは、集中力を高い水準まで引き上げ、複雑な知的作業に深く取り組む働き方です。その一方で脳への負荷が大きく、実践できる時間には限界があります。本書では、1日3〜4時間程度を一つの目安としています。
そこで、慣れた作業を長時間、安定して進めたいときに有効なのがフローワークです。ディープワークほど集中力を高めず、無理なく維持できる水準で仕事を進めます。
ディープワークが、深い集中状態を一定時間維持する働き方だとすれば、フローワークは、作業の流れの中で自然にフロー状態へ入ることを目指す働き方です。
常に深く没入し続ける必要はありません。ときどきフローに入りながら、心地よいリズムで作業を進めます。
実践するときは、次の点を意識します。
- 同時に複数の作業へ手を出さない
- 普段より少しだけ速く、正確に行う目標を決める
- 軽いストレッチなど、簡単な開始動作を決める
- 疲労の兆候があれば短い休憩を入れる
- 集中状態を無理に維持しようとしない
- 細かな振り返りに時間を使いすぎない
例えば、「30分でメールを整理する」「昨日より少ないミスで入力する」といった小さな目標を置きます。
ディープワークが「これまでの自分を超え、新しい価値を生み出す働き方」だとするなら、フローワークは「慣れた仕事を、気持ちよく安定して回す働き方」です。
目的に応じて両者を使い分けることで、集中力を消耗しすぎず、仕事全体の成果を高められます。
集中力を中心に、一日の仕事を組み立てる
ディープワーク、シャローワーク、フローワーク。
この三つは、どれか一つを選ぶものではありません。仕事の目的、自分の集中力、時間帯に応じて使い分けるものです。
新しい価値を生み出すときは、ディープワーク。
集中力を回復し、環境を整え、周囲とつながるときは、シャローワーク。
慣れた仕事を安定して進めるときは、フローワーク。
この使い分けができるようになると、「長時間働くこと」ではなく、「集中力をどこへ使うか」が仕事の中心になります。
集中力は、持って生まれた才能だけで決まるものではありません。仕事の順番と環境を整えることで、守り、育てていくことができます。
まずは明日、最も集中できる時間に、一つだけディープワークを置いてみてください。そして、その前後に回復・整備・接続のためのシャローワークを配置してみてください。
それだけでも、一日の仕事の流れは変わり始めます。
長く働くことから、集中して価値を生み出すことへ。
苦しみながら続ける働き方から、夢中になれる働き方へ。
『集中力ファースト』が、皆さんの働き方を変える最初の一歩になれば幸いです。
※本稿は『集中力ファースト』第5章「シャローワークで回復・整備・接続を進める」の内容をもとに、記事向けに要約・再構成したものです。




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