アテンション・スパン・マキシングとディープワークの関係
- 伊賀上真左彦

- 8月4日
- 読了時間: 5分

アテンション・スパン・マキシングとディープワークは、どちらも集中力を重視する考え方ですが、役割が少し異なります。
ディープワークは、作家・研究者のカル・ニューポートが提唱した概念です。注意をそらすものがない状態で、認知的に難しい仕事へ集中して取り組むことを指します。
企画の立案、文章の執筆、専門的な学習、プログラムの開発など、深く考える必要がある仕事が代表例です。
一方、アテンション・スパン・マキシングは、そのような深い集中を可能にするために、注意を持続・回復・管理する力を整える取り組みと捉えられます。
両者の関係を簡潔に表すと、次のようになります。
- アテンション・スパン・マキシング:集中できる能力と環境を整える
- ディープワーク:その集中力を価値の高い仕事へ投入する
つまり、アテンション・スパン・マキシングが「集中の土台づくり」、ディープワークが「集中力の実践的な使い方」です。
集中時間が長いだけではディープワークにならない
長時間、一つのことを続けていれば、必ずディープワークになるわけではありません。
たとえば、SNSを1時間見続けたり、受信箱を繰り返し確認したりする行動も、形式上は一つの対象へ注意を向けています。しかし、こうした活動は深い思考や新しい価値の創出を必ずしも必要としません。
ディープワークには、少なくとも次の条件が必要です。
- 取り組む仕事が明確である
- 一定の認知的負荷がある
- 中断や作業の切り替えが少ない
- 集中した結果として、成果物や能力の向上につながる
重要なのは「何分間集中したか」だけではなく、「何に集中し、何を生み出したか」です。
ディープワークが集中力のトレーニングになる
両者の関係は一方向ではありません。
アテンション・スパン・マキシングによって集中しやすい環境をつくれば、ディープワークを実践しやすくなります。同時に、ディープワークを繰り返すこと自体が、一つの対象へ注意を戻し続ける練習になります。
最初から90分や120分の集中を目指す必要はありません。集中する習慣がない状態では、長すぎる時間設定が挫折の原因になります。
まずは、次のような短い単位から始めるのが現実的です。
1. 25分間、重要な作業を一つだけ行う
2. 5分間、画面を見ずに休む
3. もう一度25分間取り組む
4. 終了後に、進んだ内容と中断の原因を記録する
慣れてきたら、集中時間を40分、60分と少しずつ伸ばします。
ディープワークを妨げる「注意の残り」
別の作業へ切り替えた後も、意識の一部が以前の作業に残る現象は「注意残余(attention residue)」と呼ばれます。
たとえば、文章を書いている途中でメールへ返信すると、文章作成に戻っても、返信内容や相手の反応が頭に残ることがあります。そのため、画面上では元の仕事へ戻っていても、注意力を完全には使えません。
ディープワークの時間中に通知を止め、メールやチャットを確認しないことには、「少し中断する時間」を防ぐ以上の意味があります。別の話題が頭へ入り込み、作業へ注意を戻すための負担が生じるのを防いでいるのです。
両者を組み合わせる実践方法
アテンション・スパン・マキシングとディープワークは、次の順番で組み合わせると実践しやすくなります。
1.重要な仕事を一つ選ぶ
「仕事を進める」のような曖昧な目標ではなく、「記事の導入部分を800字書く」など、終了条件がわかる形にします。
2.集中を守る環境をつくる
スマートフォンを手の届かない場所へ置き、不要な通知を止めます。作業に必要のないアプリや画面も閉じます。
3.無理のない集中時間を設定する
現在の集中力に合わせて、15~60分程度から始めます。集中時間の長さを他人と比較する必要はありません。
4.気になることはメモへ逃がす
別の用事や調べたいことを思い出しても、すぐには対応しません。短く記録して、集中時間の終了後に確認します。
5.刺激の少ない休憩を取る
休憩中は、ショート動画やメールを避けます。立つ、歩く、水を飲む、遠くを見るなど、次の集中へ戻りやすい行動を選びます。
6.時間ではなく成果を振り返る
「今日は60分集中した」だけでなく、完成した文章、決定した事項、理解できた内容などを確認します。
集中力を最大化する目的を忘れない
アテンション・スパン・マキシングには、集中時間の長さ自体を目標にしてしまう危険があります。しかし、集中力は記録を伸ばすためのものではありません。
ディープワークという視点を加えることで、集中力を高める目的が明確になります。
その目的とは、限られた時間と注意を、自分にとって重要で、価値を生み出す仕事へ振り向けることです。
注意を守ることがアテンション・スパン・マキシングであり、守った注意を価値へ変えることがディープワークです。この二つを組み合わせることで、単に「集中できる人」ではなく、「重要な仕事を前へ進められる人」に近づけます。
参考文献
- Cal Newport, [Deep Work: Rules for Focused Success in a Distracted World](https://www.calnewport.com/books/deep-work/)
- Sophie Leroy, [Why Is It So Hard to Do My Work? The Challenge of Attention Residue When Switching Between Work Tasks](https://doi.org/10.1016/j.obhdp.2009.04.002)
- American Psychological Association, [Multitasking: Switching Costs](https://www.apa.org/topics/research/multitasking)
- Stothart C, Mitchum A, Yehnert C. [The Attentional Cost of Receiving a Cell Phone Notification](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26121498/)





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