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アテンション・スパン・マキシングとは?「集中できる時間」を取り戻す新しい習慣

  • 執筆者の写真: 伊賀上真左彦
    伊賀上真左彦
  • 8月4日
  • 読了時間: 9分



スマートフォンを手に取ったものの、何を確認するつもりだったのか忘れてしまう。数ページ読んだだけで本を閉じ、気づけばショート動画を見ている。仕事中も、メールやチャットの通知が来るたびに作業が止まる——。


こうした「集中が続かない」という悩みへの対策として注目したいのが、アテンション・スパン・マキシング(Attention Span Maxxing)です。


簡単にいえば、集中できる時間と注意をコントロールする力を、生活習慣や環境の改善によって最大化しようとする考え方です。


ただし、これは正式な医学用語や確立されたトレーニング体系ではありません。「最大限に高める」という意味でSNS上に広がった「○○maxxing」という表現を、集中力の改善に当てはめた比較的新しい呼び方です。



アテンション・スパンとは何か


アテンション・スパンは、一般に「一つの対象や作業へ注意を向け続けられる時間」を指します。


ただし、集中力を単純に「何分間続くか」だけで測ることはできません。実際の集中状態は、次のような複数の能力によって成り立っています。


- 必要な情報を選ぶ

- 関係のない刺激を無視する

- 一つの作業へ注意を向け続ける

- 注意がそれたことに気づく

- 元の作業へ戻る

- 状況に応じて注意を切り替える


そのため、「人間の集中力は一律に○秒まで低下した」といった説明には注意が必要です。集中できる時間は、作業の難しさ、興味、疲労、睡眠、周囲の環境などによって大きく変わります。


アテンション・スパン・マキシングの目的も、何時間も一度も気をそらさずに働くことではありません。大切なのは、集中すべき対象を自分で選び、注意がそれても適切に戻れる状態をつくることです。



なぜ集中が続かなくなるのか


1.通知が注意を強制的に切り替える


スマートフォンの通知は、確認しなくても集中を乱す可能性があります。


2015年の実験では、通知を受け取っただけでも、注意を必要とする課題の成績が低下しました。参加者はスマートフォンを直接操作していません。それでも、音や振動が作業と関係のない思考を引き起こしたと考えられています。


別の研究でも、スマートフォンの通知音が鳴った試行では反応が遅くなることが報告されています。


問題は、スマートフォンを使った時間だけではありません。「いつ通知が来るかわからない状態」も、注意に負担をかける可能性があるのです。



2.マルチタスクには切り替えコストがある


資料を作りながらメールを確認し、チャットへ返信してから再び資料へ戻る。この働き方は、一見すると効率的に見えます。


しかし、注意を必要とする複数の作業を同時に進めているとき、脳は実際には作業間を高速で行き来しています。作業を切り替えるたびに、ルールを思い出し、途中までの状況を再構築しなければなりません。


この余分な時間と認知的な負担は「スイッチングコスト」と呼ばれます。切り替えが多いほど、作業の遅れやミスにつながりやすくなります。



3.短く強い刺激に慣れすぎる


ショート動画には、数十秒ごとに新しい映像、音、話題が現れます。興味を失っても、指を動かせば次の刺激がすぐに得られます。


一方、読書、勉強、企画、文章作成などでは、面白さや成果を感じるまでに時間がかかります。短く変化の速いコンテンツを日常的に選び続けると、刺激の少ない作業に退屈を感じやすくなる可能性があります。


ただし、「ショート動画によって人間の注意能力そのものが永久に短くなる」とまでは断定できません。デジタルメディアの利用と注意力の低下には関連を示す研究がある一方、因果関係や長期的影響については、まだ研究途上です。



4.睡眠不足と疲労を見落としている


集中できない原因を、意志の弱さだけで説明してはいけません。


睡眠不足は、単調な作業中に注意を維持する「持続的注意」を低下させます。短い睡眠が数日続く場合にも、注意力の低下が蓄積する可能性があります。


集中法を次々に試す前に、睡眠時間、体調、ストレス、業務量に問題がないかを確認する必要があります。



集中力を取り戻す6つの実践法


1.通知を減らす


最も始めやすい方法は、不要な通知を止めることです。


すべてのアプリを一律に制限する必要はありません。まずは、リアルタイムで確認する必要がない通知から減らします。


- SNSの「いいね」やおすすめ通知を切る

- ニュース速報を必要最小限にする

- メールを決めた時間にまとめて確認する

- 集中中はスマートフォンを裏返すか、手の届かない場所へ置く

- 緊急連絡だけを受け取れる設定にする


スマートフォンが近くにあるだけで注意成績が下がったという実験結果もありますが、同様の影響が常に再現されるわけではありません。それでも、視界や手の届く範囲から外す方法は、低コストで試せる対策です。



2.一度に一つの作業だけを開く


集中時間中は、作業の入口を一つに絞ります。


たとえば文章を書くなら、文章作成に必要な画面だけを表示します。調査が必要な箇所はその場で検索せず、「後で確認」と印を付けて、調査時間にまとめて処理します。


途中で別の用事を思い出した場合も、すぐに行動せず、メモへ逃がします。思いつきを記録しておけば、「忘れるかもしれない」という心配を減らしながら、元の作業へ戻れます。



3.短い集中時間から伸ばす


最初から60分の集中を目指す必要はありません。


現在10分ほどでスマートフォンを見てしまうなら、まずは12分、次に15分というように少しずつ伸ばします。


例として、次の進め方があります。


1. 取り組む作業を一文で決める

2. 15分のタイマーを設定する

3. その間は一つの作業だけを行う

4. 終了後に3~5分休む

5. 無理なくできたら、翌週は20分に伸ばす


重要なのは長さを競うことではなく、「決めた時間は一つの対象へ戻り続ける」という練習です。



4.退屈をすぐに埋めない


信号待ち、エレベーター、電車の待ち時間など、わずかな空白のたびにスマートフォンを開いていると、刺激のない状態を経験する機会が減ります。


一日に数回だけでも、何も見ずに待つ時間をつくってみましょう。


退屈を完全になくそうとせず、その感覚があってもすぐに別の刺激へ移らないことがポイントです。長文を読む、音楽を途中で変えずに聴く、散歩中にスマートフォンを見ないといった行動も練習になります。



5.休憩を集中の一部と考える


休憩は集中できなかった証拠ではありません。注意を維持するための設計です。


持続的注意を必要とする課題を使った実験では、休憩なしで続けたグループの成績が最も悪くなりました。また、短い休憩に関するメタ分析では、休憩は主に疲労の軽減や活力の回復に役立つ一方、作業成績への効果は課題や休憩時間によって異なることが示されています。


休憩中に次の短い動画を見始めると、休憩が長引いたり、新しい情報で頭が埋まったりします。立つ、水を飲む、遠くを見る、少し歩くといった、次の作業へ戻りやすい休み方が適しています。



6.睡眠と生活の基盤を整える


集中力を改善するための土台は睡眠です。


睡眠時間を削って集中法を実践しても、効果は限定的です。起床時刻を大きくずらさない、就寝前の強い光や刺激を減らす、日中に適度に体を動かすなど、基本的な生活習慣を優先しましょう。


マインドフルネスも補助的な方法になり得ます。111件のランダム化比較試験をまとめたメタ分析では、マインドフルネス介入が持続的注意や実行注意などに小~中程度の効果を示しました。ただし、短期間で劇的に集中力が高まる万能法ではありません。



まず試したい7日間プログラム


1日目:現状を記録する


集中が途切れた回数と、その原因を簡単に記録します。自分を責めず、通知、疲れ、空腹、別の心配などを観察します。



2日目:不要な通知を止める


仕事や生活に不可欠でない通知をオフにします。緊急連絡の手段は残します。



3日目:15分のシングルタスクを2回行う


それぞれ開始前に、「何を終わらせるか」を一文で書きます。



4日目:スマートフォンを別の場所へ置く


重要な作業中だけ、視界と手の届く範囲から外します。



5日目:30分間、長いコンテンツに触れる


本、長文記事、講義、映画などを選びます。途中で別のコンテンツへ切り替えません。



6日目:刺激のない休憩をつくる


5~10分ほど歩くか、窓の外を見ます。SNSやニュースは開きません。



7日目:効果を振り返る


集中時間の長さだけでなく、作業へ戻りやすくなったか、疲れにくくなったか、成果物が増えたかを確認します。



「最大化」のしすぎには注意する


「マキシング」という言葉には、何でも極限まで最適化しようとする響きがあります。しかし、注意力を常に最大出力で使うことは現実的ではありません。


集中時間を細かく計測しすぎたり、休憩に罪悪感を持ったりすると、かえってストレスが増えます。仕事の種類によっては、周囲へ広く注意を向けることや、考えを自由に漂わせる時間も必要です。


目標は「一日中集中する人」になることではありません。


- 集中する対象を自分で選べる

- 必要な時間だけ注意を保てる

- 注意がそれても作業へ戻れる

- 疲れる前に適切に休める


この状態をつくることが、現実的なアテンション・スパン・マキシングです。


なお、集中困難が長く続き、仕事、学習、家事、対人関係に大きな支障が出ている場合は、生活習慣だけの問題とは限りません。睡眠障害、強い不安や抑うつ、ADHDなどが関係する可能性もあるため、自己判断だけで済ませず医療機関へ相談してください。



ちなみに、こちらの記事ではディープワークとアテンション・スパン・マキシングの関係について解説しています。アテンション・スパン・マキシングが集中力を高めるための練習とするなら、高められた集中力を使い仕事や勉強の成果を最大化するのがディープワークといえます。



まとめ


アテンション・スパン・マキシングとは、集中力を気合で引き伸ばすことではありません。通知、マルチタスク、短い刺激、睡眠不足といった注意を奪う要因を減らし、集中と休憩の環境を意識的に整える取り組みです。


まずは、不要な通知を一つ止め、15分間だけ一つの作業へ取り組んでみてください。


集中力は「意志の強さ」だけで決まりません。自分を責めるより、集中しやすい環境を設計することが、最も現実的な第一歩です。



参考文献


- Merriam-Webster, [“-maxxing” Slang Meaning](https://www.merriam-webster.com/slang/-maxing)

- Stothart C, Mitchum A, Yehnert C. [The attentional cost of receiving a cell phone notification](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26121498/)

- Upshaw JD, et al. [The hidden cost of a smartphone: The effects of smartphone notifications on cognitive control](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36395335/)

- Skowronek J, Seifert A, Lindberg S. [The mere presence of a smartphone reduces basal attentional performance](https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37291199/)

- American Psychological Association, [Multitasking: Switching costs](https://www.apa.org/topics/research/multitasking)

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