本を書くということ。出版までの現実的な流れと、知っておきたいこと
- 伊賀上

- 20 時間前
- 読了時間: 10分

私の新しい書籍『集中力ファースト』の最終確認が進んでいます。
数年の歳月をかけて書き上げた本で、自分としては「出せるものはすべて出し切った」という印象があります。私にとっては初めてのビジネス書ですが、自分が経験してきたことを、現時点でできる限り詰め込めたと考えています。
以前に書いた本も、おかげさまである程度売れているようです。そろそろ肩書きに「作家」を加えてもよいのかな、と少しだけ考えています。少しだけです。調子に乗ると危ないので。
「いつか本を書いてみたい」と考える人は少なくありません。
そこで今回は、これから本を書きたい人に向けて、私が考える現実的な書籍出版の流れと、知っておくべきポイントをまとめます。
まずは「何か1つを極める」
本を書くために最初に必要なのは、文章力ではありません。
大切なのは、「自分だけの専門領域」を持つことです。
AI、業務自動化、集中力、メール効率化、教育、投資など、分野は何でも構いません。重要なのは、半年から数年という長い期間をかけて、そのテーマについて学び続けることです。
そして、学んだことをSNSやブログで継続的に発信していきます。
インプットとアウトプットを繰り返すことで、徐々にその領域の専門家として認知されるようになります。書籍を書く前に、まず「その分野の人」として認識されることが重要なのです。
私の場合、最近は「SNSでの情報発信 → 研修 → 出版」という順番がベストだと考えています。
研修は、出版に比べると圧倒的に少ない負荷で開発できます。まずは研修を行い、参加者の反応を見ながら内容を改善し、最終的に書籍として仕上げていく。この流れが非常に現実的です。
SNSでの情報発信は非常に重要
現在の出版業界では、SNSでの発信力が重要な判断材料になっています。
ただし、必ずしも何万人ものフォロワーが必要なわけではありません。出版社が見ているのは、フォロワー数だけではないからです。
むしろ大切なのは、次のような点です。
・継続的に発信しているか
・専門性があるか
・独自の視点があるか
・炎上商法や過激な手法を使っていないか
・信頼できる人物か
フォロワー数が少なくても、「きちんとした専門家」であることが伝われば十分な場合も少なくありません。
また、SNSでの発信は、文章を書く練習にもなります。読んでくれた人の反応を見ながら、何を書けば伝わるのか、逆に何を書いてはいけないのかを考えていくことができます。
他の人の投稿を見るだけでも一定の経験値にはなりますが、最終的には自分で書かないと意味がありません。書く力は、書くことでしか鍛えられないのです。
フォロワー数は多ければよいとも限らない
現在の出版業界で、SNSでの発信力が重要な判断材料になっているのは事実です。
ただし、フォロワー数が多ければ必ず有利、というわけでもありません。フォロワー数がそれほど多くなくても売れた本は、いくらでもあります。
フォロワー数が多い人の場合、熱心なファンや知人が多いケースもあります。その場合、発売直後には一気に売れるものの、その後まったく動かなくなることがあります。つまり、「身近な人は買ってくれたけれど、一般の読者には広がらなかった」という状態です。
出版で本当に重要なのは、発売日にどれだけ売れるかだけではありません。発売後も、見知らぬ読者に手に取ってもらえるかどうかです。
その意味では、フォロワー数よりも、テーマの強さ、読者への価値、書籍としての完成度の方が重要になる場合もあります。
出版社から声がかかることもある
専門性が高まり、情報発信を継続していると、出版社から声がかかることがあります。
ただし、待つ必要はありません。
もし声がかからないのであれば、自分から企画を持ち込めばよいのです。多くの出版社は、ホームページに企画の持ち込み方法を掲載しています。
意外かもしれませんが、出版社は常に新しいテーマや著者を探しています。
重要なのは、「出版したい」という熱意だけではありません。読者に価値を提供できる内容を持っているかどうかです。
自分が理想とする本の出版社に持ち込む
自分から出版社に持ち込む場合は、自分が理想とする本を出している出版社に持ち込むのがよいでしょう。
出版社には、それぞれ得意分野があります。技術書が得意な出版社もあれば、ビジネス書に強い出版社もあります。異世界転生に強い出版社もあります。そこにビジネス書を持ち込んでも、勝率は高くありません。
もう一つ重要なのは、「売れている本を出している出版社」に持ち込むことです。
私たちは、各書籍の正確な販売部数を調べることはできません。しかし、「数十万部突破」といった広告から、ある程度の情報は得られます。
売れる本を出している出版社は、編集力が高い場合が多く、営業力もあります。大手出版社から本を出せたということ自体も、実績になります。
出版社はたくさんあります。まずは有名なところから順番にアタックしていくのがよいでしょう。
数百ページの本を書ける人は、実はほとんどいない
ここは強調したい点です。数百ページに及ぶ技術書やビジネス書を書き上げられる人は、ごく一部です。おそらく9割以上の人には難しいでしょう。
だからこそ、一冊書き上げたという実績そのものに大きな価値があります。
特に、これまで一度も出版経験がない人の場合、原稿を最後まで完成させて持ち込むことには大きな意味があります。
少なくとも、「最後まで書き切る能力がある」ことを証明できるからです。執筆能力を疑われる心配は、かなり小さくなります。
もちろん、単にページ数があればよいわけではありません。読んでいて面白いこと、読者に価値があることが重要です。
下書きは、ほぼ全部書き直すことになる
初めて出版する人が驚くのが、この点です。せっかく時間をかけて書いた原稿も、そのまま出版されることはほとんどありません。
出版社では、企画会議を通す段階で、目次や構成が大幅に変更されることが珍しくありません。結果として、下書きの多くを書き直すことになります。これは珍しいことではなく、むしろ普通のことです。
そのため、最初の原稿は「完成品」ではなく、「たたき台」だと考えた方が精神的にも楽になります。
類似書はあったほうがよい
類似書、つまりこれから書く本に似た本は、あったほうがよいです。
むしろ、売れている本の類似書は、企画が通りやすい傾向があります。ある本を読んで興味を持った人は、似たテーマの本も読んでみたくなるものです。これは出版に限らず、映画でも音楽でも同じでしょう。人間は、気に入ったものの“おかわり”を求めます。
ただし、このときに注意すべきなのは、必ず類似書を超えることです。
単に真似ただけでは、「この人は真似をする人だ」と認識されてしまいます。どうせ類似書を書くのであれば、先行する本を超えるつもりで書くべきです。
ここでいう「超える」とは、必ずしもページ数や情報量で上回るという意味ではありません。ページ数が増えれば、価格が上がり、結果として売れにくくなる可能性もあります。
大切なのは、独自の視点、読みやすさ、実務での使いやすさ、著者自身の経験などで差別化することです。
出版社とのやり取りはWordが中心
出版社とのやり取りは、基本的にWordで行われることが多いでしょう。
コメント機能や変更履歴を使いながら、編集者と何度もやり取りを重ねていきます。
想像以上に細かな修正が入るため、「文章を書く」というより、「共同制作を行う」という感覚に近いかもしれません。
売れないと、次の本が出しにくくなる
現実は少し厳しい側面もあります。
売れなかった場合、2冊目以降の出版が難しくなることがあります。出版社もビジネスですから、当然といえば当然です。
ただし、例外もあります。売上がそれほど伸びなくても、独自の視点がある、他にない専門性がある、面白い切り口がある場合には、次の企画につながることがあります。編集者の目線から考えてください。この本は売れていない、しかし自分がこの著者と組み、手を加えれば面白い本を出せるかもしれない。この魅力にあらがえる人は多くはありません。
売上だけがすべてではありません。「この人なら次も面白い本が書けそうだ」と思ってもらえることが重要です。
印税で生活しようと思わないこと
これは非常に重要です。印税の割合は、一般的に5〜12%程度です。ベストセラーでもない限り、印税だけで大きく稼ぐことは簡単ではありません。
もし収入だけを目的にするのであれば、他の仕事をした方が効率はよいでしょう。
また、電子書籍は紙の書籍よりも印税率が高い傾向があります。しかし、技術書に関しては、現時点では紙の書籍の方が強く、電子書籍だけが大きく売れるケースはそれほど多くない印象です。
本当の目的は「関連ビジネス」を広げること
書籍は「収益源」ではなく、「信用を生み出す装置」と考えた方が分かりやすいでしょう。
例えば、次のような仕事につながります。
・コンサルティング・企業研修・セミナー登壇・顧問契約・新しい事業の立ち上げ
「著者」という肩書きは、想像以上に大きな信頼を生み出します。
つまり、本の価値は印税そのものではなく、その先にある仕事を生み出すことにあります。
複数の目的を持って前向きに書く
本を書くときは、必ず複数の目的を持つことが大切です。
例えば、次のような目的です。
・売れること、つまり印税を得ること
・関連ビジネスを立ち上げること
・自分の考え方や能力を証明すること
・社会的に意義のある内容を世に出すこと
この中のどれか1つでも達成できれば、その本は成功だと考えてよいと思います。
特に「社会的に意義がある」という目的は、最も達成しやすい目標でもあります。自分が本当に意義があると思うテーマについて書けばよいからです。逆に、自分が意義がないと思う本は、頼まれても書かないほうが良いです。
また、出版社に対しても、その本を出す社会的な意味をきちんと伝えることが重要です。出版社の人も、意外なほど社会的意義を見て判断してくれることがあります。出版はビジネスですが、ビジネスだけで動いているわけでもないのです。
スケジュールのイメージ
私の場合、書籍づくりはだいたい次のようなペースで進みます。
・勉強、情報収集に数ヶ月から数年
・出版社との交渉に数ヶ月から半年
・執筆に数ヶ月から半年
特に勉強や情報収集は、他の仕事をしながら進めることが多くなります。そのため、複数の書籍テーマを同時に少しずつ育てていくこともあります。
感覚としては、2年に1冊くらいのペースで書ければよいと考えています。本は、思いつきで一気に書くものではありません。テーマを育て、発信し、反応を見ながら、少しずつ形にしていくものだと思います。
本業で書くか、副業で書くか
書籍を書く場合、本業として書く方法と、副業として書く方法があります。
本業で書く場合、仕事時間を使えるというメリットがあります。また、仕事で得た知見をそのまま書籍に反映しやすい面もあります。一方で、印税は会社に入ることが多く、内容も会社の方針に左右されます。また、読者から「企業の宣伝本」と見られてしまうリスクもあります。
副業で書く場合は、基本的に仕事時間外で書くことになります。会社で得た情報をそのまま書くことはできませんし、時間の確保も大変です。
その代わり、印税は自分に入りますし、テーマ選びや表現の自由度も高くなります。
個人的には、副業として書く方がおすすめです。印税が自分に入る方がやる気も出ますし、何より自由度が高いからです。
私の場合、本業より副業の方が、時間の確保が容易で書きやすい、というのがあります。夜と土日はほとんど書いています。趣味そのものですね。
一般的には、表紙に会社名が大きく出ると売れ行きが落ちるケースもあります。ただし、最近はこの傾向も少しずつ変わってきているように感じます。大学教授が本を書く場合でも、あえて学校名を前面に出さず、個人として書くケースはあります。
どちらが正解というより、自分が何を目的に書くのかで選ぶべきだと思います。
まとめ
書籍出版を目指すなら、次の流れを意識するとよいでしょう。
・何か1つの専門領域を決める
・半年から数年かけて情報収集と発信を繰り返す
・SNSで専門家として認知される・研修やセミナーで内容を磨く
・出版社から声がかかる、もしくは自ら企画を持ち込む
・数百ページの原稿を書き上げて実績を作る
・印税だけでなく、関連ビジネスにつなげる
本を書くこと自体がゴールではありません。
本を書くことで得られる「信用」と「専門家としての立場」こそが、本当の価値なのだと思います。




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